愛して。【完】
ここから見える水川真梨は、確かに抵抗していた。
だけど、男と女じゃ力の差なんて歴然。
しかも仮にも邪鬼の総長である星宮の相手になる訳が無い。
「やっ…ん、ヤダ……っ」
水川真梨の足が、震える。
声も、震える。
泣いている、のだろうか。
拒否の声が、震えている。
それからどれだけ経ったかはわからない。
俺達は動けないまま、それを凝視していた。
動きたかった。
あそこまで走っていって、何してんだよって、何泣かしてんだよって、引き離したかった。
きっとそれは、蓮さんも同じだ。
でも、蓮さんはしなかった。
きっとここが邪鬼の溜まり場であり変な行動をすれば真梨に危害がいくのがわかっているから。
だから俺も、動かないし、動けない。
みんなみんな、動かないし、動けない。
キスが終わった途端、真梨は重力に逆らわずに地面に落ちて行く。
膝がかくんと折れて、正座でもするように座り込んだ。
「…っ……蓮………っ」
突然真梨が呼んだ、その名。
蓮さんはそれを聞いて、ピクリと体を揺らす。
ああ、この二人なら大丈夫かななんて、こっちを見た真梨の瞳を見て思う。
髪はハニーブラウンに戻っているけれど、カラコンの入ったままのその目。
カラコンが入っていても意志を持ったその目は、助けを請うていた。
蓮さんに、助けを請うていた。