愛して。【完】
「あのなぁ…」
「なによ」
強気に口を尖らせる真梨に溜息を吐く。
「戻るってことはお前のこと置いていくってことになるんだぞ?」
「そんなことわかってる」
「わかってんなら言うなって」
「いいじゃん、別に。 あたしを置いていくことが悪いことなわけじゃないでしょ」
事の重大さがわかってない真梨にまたもや溜息が出る。
本当……こいつはわかってない。
蓮さんに真梨を頼まれたからには、放って置くことなんてできないってことを。
「ねぇ」
真梨の声に、むっとした顔のまま目を向ける。
「蓮に頼まれたから、とか思ってるなら見当違いだよ。蓮はあたしをあそこから出したかっただけでしょ。別にその後の世話まで頼んだわけじゃない」
真梨がそう言い終わるか言い終わらないか。
タイミングがいいのかなんなのか、ガンッと大きな音が廃工場から聞こえた。
それとほぼ同時に、俺のケータイが鳴る。
透き通るようなきれいな声が特徴の女性ボーカルを土台としたバンドの曲を着信音設定しているのは、虎太郎。
「光もそう言うの聞くんだ」
フフッと笑う真梨は、このバンドを知っているのかもしれない。
そして真梨は、口角を上げたまま真剣な目つきで俺を見る。
「ほら……呼んでるよ?光を」
その声に従って、車を出てから電話に出た。