愛して。【完】





え、


そう言葉を発する前に、事は起こった。




何が起こったのか、ハッキリとはわからない。


ただ、いつの間にか蓮さんが星宮の背後にいた。


多分蹴るか殴るかしてから星宮がどこに飛ぶか予想してそれよりも早く背後に回ったんだろう。


要は最初の攻撃は囮ってこと。




「油断してんじゃ、ねーよっ」




そして、そのまま蓮さんは星宮の背中に蹴りをかました。




――ズシャアアァ!!


聞いているだけで痛いくらいの地面と布の擦れ音が響く。


そのまま壁まで行き着くと、ガァン!と大きな音をたてて激突した。




「っ」




誰かもわからない、息の呑む音が聞こえる。


それぐらい、迫力があった。


蓮さんの一撃に、誰もが鳥肌が立っただろう。




「……行くぞ」


「えっ」




蓮さんの言葉に、どこからも驚いたような声が上がる。


ただ、幹部の人達は違って。




「ほら、さっさと行くよ」




そう言う颯さんに、いいんですか?と問う。


でも、返ってくる声は颯さんではなく蓮さんのもので。




「あんな糞野郎、相手にする価値もねぇ」




そう言って、星宮の方を一回も見ることなく廃工場を去っていく。




「糞野郎で……悪かったね」




その声にも反応せず、歩いていく。


俺達もその背中についていくように足を踏み出した。










「でも…ありがとう」



小さすぎるくらいの声で囁かれたそれは、誰にも聞こえない。





【光side end】





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