愛して。【完】
「ふぅ……」
小さく吐いた溜息が車内に響く。
光が居なくなってからどのくらいの時間が経っただろう。
もしかしたらたったの数分かもしれないし、数十分だったのかもしれない。
ただ、たった一人の空間は妙に時間の流れを遅く感じさせる。
震えは止まった、涙も止まった。
光が居なくなったからか、眠気も止まった。
だけど、まだその余韻を残したままの心は一人だと心細い。
あたしが光を行くように仕向けた様なものなのに、一人になった途端こんなこと思うなんて馬鹿みたい。
実際馬鹿だと自分で思う。
ふと窓の外を見ると、廃工場から出てくる蓮達が見えた。
「れ、ん…」
ポツリ、小さく呟かれた声は当たり前だけど蓮に届かない。
だけど蓮はスモークガラスでハッキリとは見えないあたしを見詰めながら近付いて来ている気がする。
それは思った通りらしく、ドアの前に立ったと思ったらそれを開けた。
開いた瞬間、蓮と目が合う。
あたしは口を開かない。
だって、蓮のあたしを見る眼差しが、何とも言えない色をしていたから。
鋭いのに儚げで、
強いのに苦しげで、
優しいのに悲しげで、
何を思っているのかわからないから。
「いいって言うまで入ってくんなよ」
蓮はそう周りの人に言い放って、車の中に乗り込んだ。