愛して。【完】
「ほら」
そう言って、顔を突き出してくる。
さっきより近い位置で目が合って、視界が揺れた。
「蓮…」
「早く」
そう言ってあたしを急かす。
思わずそっと、手を伸ばす。
女の子なら誰でも羨ましがるような乾燥なんて知らない肌。
あたしの少し震えた手が、触れる。
蓮は少し擽ったそうに身を捩った。
「目、閉じて…?」
あたしが口にした言葉に動揺することもなく、静かに目を閉じる。
蓮の長い睫が影を落とす。
筋の通った高い鼻、
切れ長の目、
長い睫、
程よく日焼けした肌、
色気を放つ唇、
蓮の綺麗な顔が、目の前にある。
それにこんなに嬉しいと思うあたしは、もうとっくに蓮に溺れてる。
『お前は俺に溺れてろ』
蓮と前にキスした時。
あたしが意識を手放す寸前、言った蓮の言葉。
きっとあたしはその頃から蓮に溺れ始めてた。
今、あたしは蓮に溺れてる。
「このキスは、星宮にしたのとは違うキスだから。ただの“水川真梨”がしたキスだからね」
そう言ってから、蓮に顔を近付けた。