静流の恋
「静流!」
駆け寄ってそっと抱き起こすと、うっすらと目を開け、彼女はぼくを見て微笑んだ。
「あ、おかえり・・・」
からだを起こそうとする静流の右手をぼくは掴んだ。
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
動揺していたので、少し強めに掴んでしまった。
ズルッ、とぼくの手の中で静流の皮膚がすべり、反射的に手を離してしまう。
静流の小指と薬指が、カーペットの上に落ちた。
ぼくは何が起こったのか良く分からず、しばらくぼおっと転がった二つの指を眺めていた。
見覚えのある、小さくて愛らしい静流の指。
その表面には赤黒い斑点がいくつも浮かび、透き通るほどに白かった元の面影は無くなってしまっていた。
「あ、あははははっ」
耳元で、陽気な笑い声が弾けた。
顔を開けると、静流が笑っていた。
「いやー、とうとうヤバイみたい。時間切れってやつ?」
「いや、笑い事じゃないよっ」
自分でも驚くほどの大声が出た。
静流はきょとんとして・・・
それからちょっとだけ困ったような表情をして、また笑った。
「いや、でもこりゃどうしょうもないし。・・・なんかごめんね」
笑いながら頭を掻きかき。

その、たった一つ残った瞳から、涙がひと筋、こぼれた。

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