静流の恋
まさか、そんな。
それじゃ静流は、いまどこに?
「いったいあなた、隠れてなにやってたのよっ!」
突然の大声にはっとする。母親が泣いていた。
「あの子が現れたとき、かあさんたちがどんなにびっくりしたか」
「現れた・・・彼女が、自分から?」
「そうよ、あなたが・・・あなたが苦しんでいるから、見てやって欲しいって」
静流。
「ね、あなた大丈夫なの? あの子に何かされたんじゃないでしょうね? ねえ、いったいなんなのよ、あのバケモ・・・」
「言うなっ!」
思わず叫んだ。
母親がびくんと体を震わせた。
それだけは、いうなっ!
ぼくの前で、それだけは。
怒りで目がくらみそうだった。
憎しみを込めて睨んだ先に、途方にくれる母親の姿があった。
それを見て、全身の力が、急速にしぼんでいくのを感じた。
そうだ。
この人は悪くない。
誰だって、いまの静流を見ればそう思うだろう。

でもそれじゃ、静流は?

ぼくはそのまま病室を飛び出した。
もう着替えなんて関係なかった。
後ろで母親の、ぼくを呼ぶ声が聞こえたが無視した。
病院を出て、静流の姿を求めて、町をさまよう。
おかしな格好をして、ふらふらと頼りない足取りのぼくを、人々が好奇の目で見る。
その人ごみの間に、静流を求める。

ふたりで行った公園。

ふたりで歩いた、河川敷。

ふたりですごした、思い出の場所達。

でも静流は見つからない。

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