星に願いを メイドにカチューシャを
――瀬能 巧(せのう たくみ)。
彼の名前を知ったのは、あれから3週間ほど経ったある日のこと。
英語やゼミの授業とは違って、生徒同士の交流がまったくない講義の場合、お互いの名前も知らないまま授業が進むということは珍しいことではない。
大体の人は友達と近くの席に座ったり、いつも一緒にいるわけではないけれど、何かの機会に顔なじみになった者同士で近くに座ったりする。
そうすると、授業が始まるまでにおしゃべりする相手にも困らないわけだから、わざわざ知らない人に話しかけたりすることもなく、全15回の授業を終える。
彼――瀬能くんも、友達数人といつも一緒にいることが多かった。
教室に2人きりになれたのもあの1回だけで、あの1回すらも、特に会話が弾むこともないまま彼の友達が教室に来てしまったので、私はおとなしく席についたのである。
それでも、上体を丸めてカメラを構え、ファインダーをのぞく彼の姿が目に焼き付いて離れなくて、サラサラの髪の毛に触ってみたくて(変態かもしれないけど)、しっかりと風景をとらえていたあのまっすぐな瞳にうつりたくて、
……つまるところ、お近付きになりたいと思っていて、キャンパス内ではいつも彼の姿を探していたし、見つけることができたら嬉しくて、ずっと彼の姿を追いかけていた。