レジェンドは夢のあとに【8/18完結】


しかし相手も相当疲れたらしく、肩で息をしていた。

ドアを閉める直前にこう言われた。




「あんたは芸人のが似合うよ」


――バタン。
カチャリ。(鍵の音)




「げ、芸人なんかなりたくないんじゃー!鍵掛けるなバカー!!開けなさい!…いや、嘘、開けてくださーい!!じゃないとあたし、このオーディションで100回め…」


必死でドアを叩きながら叫ぶものの、途中で声が枯れた。

だめだ。
完全アウト。


わかってはいるものの、受け止めきれない。というより、受け止めたくない現実。



「おいおい、達成しちゃったよ。100回め…」


ぽつりと呟くと、床に突っ伏した。

通りかかったスタッフに踏まれて「邪魔」と言われるまで、ずっと突っ伏していた。







「…おまけに、外は雨だし」

ついにスタッフによってビルの外につまみ出されたあたしは、嫌みなくらいに激しい雨にため息をついた。


さっきまでの快晴はどこへやら。



こういうときに限って傘ないし。
こういうときに限ってミュール履いてるし。




「…人生ってなんでしょうか」



ビルの正面ガラスに映る自分の姿を見る。

メイクは完璧だったはず。
でも暴れたせいでところどころファンデーションが溶けている。
長い巻き髪はぼさぼさ。


< 11 / 226 >

この作品をシェア

pagetop