レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
しかし相手も相当疲れたらしく、肩で息をしていた。
ドアを閉める直前にこう言われた。
「あんたは芸人のが似合うよ」
――バタン。
カチャリ。(鍵の音)
「げ、芸人なんかなりたくないんじゃー!鍵掛けるなバカー!!開けなさい!…いや、嘘、開けてくださーい!!じゃないとあたし、このオーディションで100回め…」
必死でドアを叩きながら叫ぶものの、途中で声が枯れた。
だめだ。
完全アウト。
わかってはいるものの、受け止めきれない。というより、受け止めたくない現実。
「おいおい、達成しちゃったよ。100回め…」
ぽつりと呟くと、床に突っ伏した。
通りかかったスタッフに踏まれて「邪魔」と言われるまで、ずっと突っ伏していた。
「…おまけに、外は雨だし」
ついにスタッフによってビルの外につまみ出されたあたしは、嫌みなくらいに激しい雨にため息をついた。
さっきまでの快晴はどこへやら。
こういうときに限って傘ないし。
こういうときに限ってミュール履いてるし。
「…人生ってなんでしょうか」
ビルの正面ガラスに映る自分の姿を見る。
メイクは完璧だったはず。
でも暴れたせいでところどころファンデーションが溶けている。
長い巻き髪はぼさぼさ。