レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
周りの音が何も聞こえない。
時計の針の音さえも。
…目の前の林田さんしか見えなかった。
口の中が一気に渇く。
動かない口をなんとか必死に動かして、言葉を絞り出した。
「ま、万が一なんて… 考えたく、ないです」
「俺もだ」
「だって…みんな、一生懸命……そんな、」
「落ち着け、チア。俺もだ」
林田さんは腕を伸ばしてきて、あたしの肩をぽんと叩いた。
泣きそうな顔をしてたのかもしれない。
「芸能界は華やかなんかじゃない。幽霊以上に凄まじい妬みや怨念、とにかく恨みにまみれたドロドロの部分を持ってる」
林田さんは席を立って、壁にあるポスターに触れた。
目を閉じてギターを持つしょーごさんと、微笑むケイくんのポスター。
銀色の大きな"labyrinth"の文字。
「こいつらだって、いーっぱいの恨みのもとで活動してるわけよ。
しょうがないね。人間の才能なんてくそみたいに不公平だ。人は不公平に一番耐えられないもんだ。
嫌われない、恨まれない人間なんていやしない。もしいたとしたら、そいつには何の価値もないってことだね」
林田さんはそう言って、笑った。