レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
タクシーなんか乗るお金はない。
「シャワーのつもりだと思えば、雨は無料だしラッキーかな!」
あはは。
なんて無理に一人で笑ってみせた。
オーディションに落ちたあとはいつもこう。
つまんない独り言をいって、一人で笑う。
そしたら大丈夫になる。
99回そうしてきた。
けど。
「やば…さすがに、キツいわこれ…」
耳にうるさい雨の音。
ぎゅっと目を閉じた。
凹むなぁ。
死ぬのは痛いし嫌だけど、一瞬自殺方法とか考えそうになるよ。
金欠だけどここは意地でもタクシー使おうかな。
じゃないと、どこに行くのか自分でもわからない。
――"100回まで"。
それがママとの、そして自分に対する約束だった。
今思えば、あたしは完全に芸能界をナメていた。
"おうた、上手ねー"
"自分で作ったの?!すごーい"
"もっと聞かせて"
小さい頃から、親戚や友人の間で褒められてきた。
カラオケが大好き。
あたしが褒められる場だから。
でも、そんなの小さい世界だった。
ちょっと歌が人より巧いだけで
売れっ子歌手になれたら。
そんな人は、はいて捨てるほどいる。
それだけじゃだめなんだ。
死ぬほど巧くて、あとは…
"センスがない"
"オーラがない"