レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
…実は、ない。
あたしは肩をすくめた。
「お金がなかったもので…」
「散々ファンだとか言ってたわりに、ねーのかよ」
しょーごさんが少し、つまらなさそうに言った。
――そんなこと言ったって。
labyrinthのチケットなんて、かなりのプレミアもの。
一番安い席だってバカにならない値段なのだ。
「もうちょっと、良心的な値段にしてもらえれば…」
「まぁオーディションやらなんやら100回も準備してりゃ、金も飛んでくだろうなぁ」
「だ、だから言わないでってば!思い出したくない過去を!」
日本一規模のアリーナを前に、ぎゃーぎゃー騒ぎだしたあたしとしょーごさんを、林田さんが呆れ顔で振り返った。
「おい、バカ二匹。仲良しなのは結構だがこんなとこで痴話喧嘩はやめろ」
「「誰がこんな奴と!!」」
声がハモった。
そして、目が合う。
腹が立つはずなのに。
"痴話喧嘩"
こんな言葉に、なんだか、頬が熱くなる。
ケイくんが楽しそうな目でこっちを見ている。
ワタルはきょとん顔。
林田さんに続いて先に歩いていたアキトが、冷静な表情のままこちらを振り向く。
「早くしてくれない? あと、チア、できれば俺のカバン持ってほしいんだけど」
「あ、ご、ごめんなさいっ」
あたしはしょーごさんの横をすり抜けて、慌ててアキトのもとに駆け寄った。