レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
いくら視力が悪いあたしだって。
さすがにそんな距離にいたら、顔は見えてしまう。
――だけど、どんな顔をしていたのかは、誰にも言いたくない。
…ただ、彼の余裕たっぷりの第一声は、これだった。
「良かったな。…"初めて"が俺で」
「な…っ! こ、この変態アイドル!」
「言っただろ。余計なことを言ったら、黙らせるって」
あたしは眼鏡をかけて、もう一度顔を上げた。
言葉ほど、その表情は意地悪なものじゃなかった。
「…っ、だからって…」
…キス。
しょーごさんと、キスした。
その事実を考えると、どうしても頬が赤くなる。
「あ、あの…」
「何?」
しょーごさんに、聞こうとしたそのときだった。
―――バンッ!
豪快にドアが開いて、爽やかな声が響いた。
「おはよございま~す!…って、あんたたち、いつから来てたの!?」
彩花さんが驚いたように、重たそうなバッグを下ろしながら言った。