レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
車が走り出すのと、あたしがシートにずるっと倒れ込むのと、同時だった。
「はい?」
「まぁさすがの君でも、そこまでの勘違いはしないだろうな」
「あの…」
「歌を聴いてもいないし、まずあのタイトル…ぷっ」
「笑うな!」
「まぁそれはともかくとして、君は芸能人の器じゃない」
運転しながらすらすらと失礼な言葉を並べるおじさんは、さっきまで神に見えていたのに、今はもはやハゲかけた髪しか目に入らなかった。
騙された…
唖然としたけれど、すぐにはっとなった。
危ない。
あたし、危ないのかも。
芸能人じゃないとすれば、こうして車に乗せられてるのも…
「ま、まさか、変なビデオの撮影とかするんじゃないでしょうね!?あたしに何する気なの!」
「そのポジティブさが、君を今日まで支えて来たんだろうね」
信号待ちで車を停止させると、彼はにこりとあたしを振り向いた。
微妙な長さのヒゲと残り少ない髪を引っ張ってやりたい。
「安心しなさい。そういうのはもっとナイスバディな美人がやるものだ」
「し、死ね!」
「春田千愛」
フルネームを呼ばれて、思わずびくっとなる。