レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
「な、なによ」
乾きかけた髪を引っ張りながら、あたしは強気な態度を崩さないまま答えた。
再び車が走り出す。
窓ガラスを打ちつける雨は徐々にマシになっていってるような気がした。
「歌手には歌の才能がいり、モデルには見た目の美しさの才能がいり、女優には演技の才能と美貌がいる」
「…」
「才能が合わさり、芸能界は成り立っている。夢の世界は才能の結晶だ」
「だから、なに…」
「だが、歌手や女優がいくらいても、それだけでこの世界が成り立っていると思うかね?」
あたしはサイドミラーに映る、おじさんの目を見た。
真剣な目だった。
「…そんな、ことは…」
「そうだ。直接テレビに映る才能だけじゃない」
「でも、何を言いた…」
「君は」
直接テレビに映る才能
ではない、才能を持っているのかもしれない。
おじさんは確かにそう言った。
正直、意味がわかんない。
「そういや、名乗り忘れていたな」
何度目の信号待ちのとき、おじさんはあたしに名刺を渡した。
ピッと弾くように。
肩書きと名前と電話番号だけの、シンプルな名刺。