レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
しばらくの沈黙のあと、アキトがそっとあたしから腕を振りほどいた。
「別に、何もない」
「そ…そんなこと、ないはずでしょ? …た、例えば、しょーごさんのこととか」
躊躇いながらもその名前を口にすると、アキトは目を細めた。
「…しょーごさんが、何?」
「アキトはその…しょーごさんを、どう思ってるの? 不満とかは…」
「あの人は」
アキトは息をついて、一瞬だけ間を取ってから、吐き出すように言った。
「…俺にないものをいっぱい持ってる人だ。普通に尊敬してる」
「で、でも前高慢で嫌いだって…」
「あぁ。高慢で、荒々しくて、それなのに音楽を奏でたら一発で、周りにそれを許させてしまうだろ。ずるくて嫌いだね」
アキトはきっぱりとそう言い切って、あたしに背を向けた。
「アンタの用がそれだけなら、俺は練習に戻る」
「ま…待って!」
ドアに向かって歩き出したその背中を、もう一度だけ呼び止めた。