レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
――振り向くと、そこにはワタルがきょとんとした顔で立っていた。
「そこじゃないよ。僕らの部屋は2個隣」
「あ…そうだったっけ。…あの、アキトは?」
なるべくさりげなく聞いてみると、ワタルは「楽屋にいるよ」と笑顔になった。
「ほら、こっち。そこはスタッフさんの部屋だから」
ワタルはあたしの腕を引いて、2つ右隣の楽屋のドアを開けた。
……あれ、本当にこっちだったっけ。
そう思った時と、ワタルが鍵をかけた音を聞いた時が、同じだった。
――空っぽの部屋。
もちろん、アキトはいない。
こんな簡単な罠にひっかかるなんて我ながら情けない。
ドアを後ろ手に閉めて立ったワタルを見つめたまま、あたしはごくりと唾を呑みこんだ。
「な…なんのつもりなの」
「えー?なんのことだよ。 チアちゃん怖いな」
彼は相変わらず、いつもの爽やかな笑顔を崩さないまま言った。
屈託のない笑み。
それが逆に怖くなる。
「ちゃんとメール送ったじゃん。楽しみにしててねって」