レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
ワタルが笑みを崩さないまま、じりじりとあたしを壁に追い詰める。
…アキトに迫られた時とはまた違う恐怖心が全身を包む。
見た目も話し方も、いつもと変わらない。
だからこそ、余計に怖い。
「怖がらないでよ。チアちゃん。…ただ、チアちゃんが好きなんだよ」
そう言ったと思ったら、ワタルが優しくあたしを抱きしめた。
…優しすぎて不気味なぐらいに。
柔らかい白いポロシャツにそっと、抱きしめられる。
「…ひゃっ…!」
背中を這う手に、ぞくっとした。
ワタルはふふ、と笑うとあたしに優しい声のまま、囁いた。
「そうだよ、実は僕なんだよね…
…singer killerは」
はっとして、無理にでも体を離そうとした。
その時にはもう遅くて。
…首元に冷たい感触を覚える。
「だめだよチアちゃん。おとなしくしようよ。大好きなしょーごさんのためにさ」
――腕は離されているのに、抱きしめられてないのに、動けない。
小さなナイフを首に突きつけて微笑むワタルは、ついさっきまでと同一人物には思えなかった。