レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
ひとなつっこい顔立ちも、爽やかな雰囲気も、優しい笑顔も変わらない。
…なのに、これは夢?
冷たく尖った感触が、これが夢じゃないことだけを感じさせてくれる。
――水野圭太です!2曲目の紹介させてもらいますね…
かすかにだけど、確かにステージからの声が聞こえる。
ファンの歓声も聞こえる。
それにわずかな希望を託して、あたしは顔を上げた。
「なにが…目的なの」
「あんまり驚いてないね」
ワタルは意外そうに、目を丸くして言った。
「あんまり疑われてるように感じてなかったんだけどな」
「…さっき、気づいたの」
「へぇ~。チアちゃんすごい!」
いつものように、満面の笑顔を向ける。
手に持ってるものがナイフだなんて感じさせないような、爽やかさ。
だけどあたしの頬に触れた左手は冷たかった。
「…っ」
「さすがは、林田さんが見込んだ目だなぁ」
顔を振ってその手を振り払うと、その衝動でナイフの先が少しだけ首元に当たる。
ちくっとしたような痛みに、顔をしかめた。
「あーあ。チアちゃんが暴れるから」
ワタルの冷たい指先が、わずかに流れた血を拭う。