レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
「チアちゃんが賢くて、良かったよ。そのおかげで僕はまんまと本多省吾のバンドの一員になることができたんだからね」
「…しょーごさんに、なんの恨みが」
「うん?ぶっちゃけ言うとね、しょーごさんが悪いんじゃないよ」
意外なことを言うから。
あたしは思わず「え?」と身を乗り出してしまった。
…そのときにまた、ちくっと痛みが走る。
―――じゃあ次の曲いきまーす…
首元に目を遣ると、細く血が流れていた。
たいした傷じゃないけど、触られると痛みが走る。
「どういうこと?」
なるべくナイフから離れるために、壁にぴったりと背中をくっつけたまま聞いた。
ワタルの表情がわずかに変化する。
「やっぱり、何も知らないんだ。そりゃそうだよね。
…僕の兄はね、この極悪事務所に殺されたんだ」
口元は笑っているけれど、目は氷のように冷たい。
なんの感情もない声で、ワタルはそう言った。
「山村タケルって…写真すら見たことない?」
そう言われて、必死に頭の中の記憶を掘り起こす。
そんな名前は聞いていない。
―――でも…もしかして。
「…しょーごさんに似てる…?」