レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
あたしは、あの写真を思い出していた。
彩花さんが無言で赤マークのファイルに入れていた、あの人。
――とっても、美形だった、男の子。
「似てる…と思う。たぶん、それだよ」
もう笑顔じゃなかった。
無表情に近い。
また少し、ナイフが近づいた。
「母が再婚したから、苗字は違うけどね。兄は今から2年前にブルーバードに入ったんだ。顔もよくて、歌がうまくて、僕は絶対に兄が大画面に映る日が来るって信じてた。それなのに…」
本多省吾。
こいつは絶対に大物になる。どんどん売り出していくぞ!
林田さんの一言で、事務所は完全にしょーごさん押しに。
おまけに、林田さんにはこう言われた。
「お前は顔もいいし歌も悪くないけど、今一つオーラが足りない。モデルとしてなら活躍できそうだが、歌手は難しいから諦めろと。 しょーごさんの登場で自信を失っていた兄にとって、大きなショックだったんだ。生まれた時からずっと歌手を目指してたような、そんな人だったから」
…あの林田さんなら、きっぱりとそういうことを言うだろう。
ワタルの、ナイフを握る手に力がこもった。