レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
「…もともとメンタルが強くない人だった。兄は事務所を辞めて、翌日自殺した。高校もやめて、恋愛も友情もなにもかも諦めて、ただ歌手になるためだけに没頭していたから、全部を失った気になったのかもしれない」
頭の中で、パズルのピースがすべてハマった。
どうしてあのとき彩花さんが何も語らなかったのか。
ワタルがずっとバンドを組まないままで、突然このバンドの話を拾ったのか。
そして、"singer killer"の意味。
「singer killerは僕であり、この事務所でもある。でも、この事務所にとって一番大事なのはしょーごさんだよね。それに…」
言葉を切って、ワタルはぐっとあたしの顎を持ち上げた。
「しょーごさんが一番大事にしてるのは、どうやらチアちゃんだよね」
「…っ」
「最初はね、全部をめちゃめちゃにしてやりたいと思ったんだけど、もういいや。
あの人が一番大事にしてるものさえ壊せたら、それでいいんだ」
グッ!と顎を引き寄せて、ワタルはあたしに無理やりキスをした。
「…んっ!」
思わず唇を噛むと、じわっと鉄の味が広がる。
「うっ…」
ワタルが唇を拭った瞬間にナイフを取ろうと思ったけれど、映画のようにそううまくは行かなかった。
素早くあたしを壁に強く押し付けて、ナイフを突き立てるように腕を構える。
「…そろそろ、優しくするのも終わりかな?」
もうだめかもしれない。
そう、思った時だった。