レジェンドは夢のあとに【8/18完結】


彼は、大都会のTVの中に舞い降りた。


本多省吾、という名前と共に。





「チア」

「…っ!?」

「チア、という女の子が3年前に俺と同じ電車の中で話をしていた」


林田さんは微笑みながら、腕組みをしたまま続けた。
目を逸らすことが出来なかった。


「彼女は友達に力説してた。ガムのCMの真ん中の男の子が売れるって」

「…」

「俺は正直、ミーハーなだけの女子中学生の話になんて興味はない。ただ、ちらりとそいつを見たら、その目は他の奴らとは違ってた」

「…え」


「俺と同じだ。

…見抜く、目だ」



あたしの目に突き立てるかのように、指を差し出した。

あたしは瞬きひとつせずに、その乾いた指先を見つめる。


――見抜く、目?




「そしてチアの目は、俺よりいいものだ。

俺はその目を何故か信じて、そのガムの男の子に声を掛けた。
まだ他の事務所にも全然捕まっちゃいなかったし、業界仲間は俺を笑った。たいしたことない拾いモンだってな。しかし」


林田さんの口角が、きゅっと上がった。


< 27 / 226 >

この作品をシェア

pagetop