レジェンドは夢のあとに【8/18完結】
「エントリーNo.48の春田です!よろしくお願いしますっ」
…さぁ、今度こそだ!
何度めか知れない意気込みを胸に、すうっと深呼吸した。
そのままの勢いでマイクを口に近付けたあたしを慌てて止めるように、審査員の一人が言った。
「ちょ、ちょっと待った。まずは曲のタイトルと、軽い説明を」
「え?あ…そうですね」
やだあたしったら、と思わず照れ笑いしてしまう。
…勢いのまま突っ走りすぎた。
落ち着け。
とにかく、落ち着くことだ。
「これは、あたしが中学生のときに失恋した経験をもとに作った曲です」
ふむ、と頷く審査員のオジサマやオバサマに熱く語りかける。
どうか心に響いて!
「そ゛れ゛は゛…!」
キィーン!と不快な音が響き渡って、あたしはおろか審査員全員が顔をしかめた。
「まっ、マイクを離しなさい!」
「あ…すみません」
熱がこもりすぎて、マイクに口を近づけて大声を張り上げてしまったらしい。
マイクを下ろすと、あたしは相変わらず声を張ったまま続けた。
「それはもう、思い出しただけで涙が出ます…。相手は隣の席の男の子で、消しゴムの貸し借りとかもしていていい感じだったんですね。
それなのに…あたしはある日の給食で、彼の前で思いっきり鼻から牛乳を出してしまって。
それから彼はあたしと顔を合わせてくれなくなってしまいました」