鳥籠の中の少女
「緋...ちゃ....結ちゃん.....緋結ちゃん」


呼びかけと体を揺すられてる事に気付いて我に返る。


「大丈夫?泣いてたから、気になっちゃって」


泣いてる?

私が?

そんなのあり得ない。

だって、私は感情と言うモノがないはず。

私は疑いながらも手を頬に当てる。

当てた瞬間、指が濡れる。

私は泣いていた。

おかしい。

私はどんなに唯人の事を考えてもあれ以来、泣いた事なんて無かったのに。

どうして?

分からない。


「大丈夫だから」


私は手で涙を拭ってノートに目をやる。

嗚呼、そう言えば、ノート書いてなかったのね。

握りしめていたシャーペンで黒板に書いてあることを写していく。


「大丈夫じゃないくせに」

「何でもないって言ってるでしょ」


悔しそうに唇をかんだ彼は、次の瞬間、そっと、呟くように言葉を零す。


「この強がり.......」


言い返そうとした樋渡君の言葉を遮ってチャイムが鳴った。


「ほら、チャイム鳴った。この話は終わり」


それをいいことに私は無理矢理話を終わらせた。

誰にも唯人の事は話さない。

勿論、彼にも。

話したら唯人との思い出まで話す事になる。

それは絶対に嫌。

唯人との思い出は私の宝物だもの。

宝物は見せびらかさずににそっと抱きしめていたい。


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