毎日がカレー曜日
「吉祥寺ヤイバを覚えてるか?」
兄──塚原直樹は、怪しげな白い飲み物に口をつけながら、そう切り出した。
給仕したのは、サヤと呼ばれる女だ。
頭のスカーフみたいなのは取り払われ、いまどき珍しい真っ黒の髪が現れていた。綺麗に編み上げられ、頭の後ろの方でまとめられている。
20代半ばくらいだろうか。兄が「ちゃん」づけで呼んだので、もっと若いかと思っていた。
「ヤイバって、えーと」
白いナンを指でちぎって口に放り込みながら、孝輔はその名前を思い出そうとした。
サヤには聞き覚えはなかったが、そっちはあったのだ。
「アニキの友達で同業者だったよな。大学一緒だったっけか?」
かきわけた記憶の中から、ようやく目当てのものを掘り出せて、孝輔はすっきりした。
すっきりしたついでに、自分にも用意されている白い飲み物に口をつけると、甘いんだかすっぱいんだか、なんとも微妙な味わいだ。ヨーグルトジュースとでもいうべきか。
思わず、白く濁った水面を見つめてしまう。
「ラッシーです。お口に合いませんか?」
この国では、既に死滅したのではないかと思われるような綺麗な日本語。
美しい言葉に聞きほれかけたが、そんな悠長な事態ではなかった。
向かいの兄が、突然炎を上げてごうごうと燃え盛り始めたのだ。
「そんな生易しい関係ではないわ! ヤイバは我が心の友!」
ドォン。
強くテーブルにたたきつけられた拳は、その上にあるものを、軽く1センチほど跳ね上げさせた。
行儀悪く、グラスを持ったまま肘をついていた孝輔は、というと。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
心配そうな、やっぱり真っ黒な目に覗き込まれる。
「いやま、えっと、タオルくんない?」
ラッシーなるものを、顔中にまきちらしてしまったのだった。
兄──塚原直樹は、怪しげな白い飲み物に口をつけながら、そう切り出した。
給仕したのは、サヤと呼ばれる女だ。
頭のスカーフみたいなのは取り払われ、いまどき珍しい真っ黒の髪が現れていた。綺麗に編み上げられ、頭の後ろの方でまとめられている。
20代半ばくらいだろうか。兄が「ちゃん」づけで呼んだので、もっと若いかと思っていた。
「ヤイバって、えーと」
白いナンを指でちぎって口に放り込みながら、孝輔はその名前を思い出そうとした。
サヤには聞き覚えはなかったが、そっちはあったのだ。
「アニキの友達で同業者だったよな。大学一緒だったっけか?」
かきわけた記憶の中から、ようやく目当てのものを掘り出せて、孝輔はすっきりした。
すっきりしたついでに、自分にも用意されている白い飲み物に口をつけると、甘いんだかすっぱいんだか、なんとも微妙な味わいだ。ヨーグルトジュースとでもいうべきか。
思わず、白く濁った水面を見つめてしまう。
「ラッシーです。お口に合いませんか?」
この国では、既に死滅したのではないかと思われるような綺麗な日本語。
美しい言葉に聞きほれかけたが、そんな悠長な事態ではなかった。
向かいの兄が、突然炎を上げてごうごうと燃え盛り始めたのだ。
「そんな生易しい関係ではないわ! ヤイバは我が心の友!」
ドォン。
強くテーブルにたたきつけられた拳は、その上にあるものを、軽く1センチほど跳ね上げさせた。
行儀悪く、グラスを持ったまま肘をついていた孝輔は、というと。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
心配そうな、やっぱり真っ黒な目に覗き込まれる。
「いやま、えっと、タオルくんない?」
ラッシーなるものを、顔中にまきちらしてしまったのだった。