毎日がカレー曜日
 いけない。

 はっと、サヤは身体を起こした。

 知らない間に、うとうとしていたらしい。

 時計を見ると、23時。1時間近く眠っていたことになる。

 彼の席の方を見ると。

 そこに、猫背の姿はなかった。

 え?

 ディスプレイはついているから、帰ったわけではないだろう。

 一体どこに行ってしま──コーヒーの匂い。

「ん?」

 給湯室から、そんな声が聞こえる。

「起きたんなら、コーヒー飲むか?」

 孝輔だ。

「あ、はい…」

 まだ、寝ぼけてるのかな、私。

 余りに静かな現状を、サヤはうまく把握しきれていなかった。

 直樹は、定時になると『そいつ気にしないで帰っていいからね』と言い残して去っていった。

 それでも、どこか去りがたくグズグズしている内に、時計だけが進んでいってしまったのだ。

 孝輔は、E値を探るためにずっとコンピュータの前に座りっぱなしで、うつらうつらする直前まで、不協和音キーボードを演奏していた。

「ほい」

 戻ってきた彼の手には、二つのマグカップ。

 そのうち一つを、サヤに差し出してくれる。

「どうもありがとうございます」

 サヤは、応接セットのソファに座ったまま。孝輔は、背もたれの部分によりかかるように立っている。

 すごく静かだ。

 もしE値が見つかったなら、孝輔は喜びと興奮でいっぱいになっているだろう。

 それは直樹のお墨付きだったはずだ。

 それなら。

 この静かな空間は、どういう意味なのだろうか。
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