毎日がカレー曜日
「あの…」

 コーヒーに口をつけないまま、サヤは慎重に唇を開いた。

「ん?」

 ちょうどマグカップを口にあてていた孝輔は、そのまま鼻先だけで反応する。

「お仕事…はかどってますか?」

 あえて、曖昧に聞いてみた。

 彼にプレッシャーを与えないように、これでも気をつけてみたのだ。

 すると。

 孝輔はゆっくり、マグカップを口から離した。

 両手ではさむようにそれを持って、少し顎を上げ──天井を見る。

「…見つかった」

 激しい喜びや興奮の色はない。

 でも。

 達成感をゆっくり噛み締めている、男の顔がそこにはあった。

「それは、よかったですね。おめでとうございます」

 あぁ。

 サヤにも、じわじわそれが押し寄せてきた。

「あー」

 孝輔の顔が、かすかに緩んだ。

 天井を見たまま。

 唇の端を押し上げる。

「あー…メチャクチャうれしい」

 心の底から吹き出した、喜びの声。

 いつものムッツリとした表情は、そのどこにもなかった。

 本当に。

 ただ本当に、純粋に、幸福の声を上げるのだ。

 そのおすそわけは、サヤにも届いた。

 胸の中に、温かさが広がっていく。

 胸がいっぱいとは、きっとこのことを言うのだろう。

「ほんと、よかったですね」

 だから。

 だから、サヤは忘れてしまっていた。

 紙袋の中に残していた、昼食の存在を。

 仕事の終わった孝輔に食べてもらおうと思って、自分の分をとっておいたのに。

 昼食ぬきの二人は、本当に胸がいっぱいで──食べ物のことなんて考えられなかったのだ。

 コーヒーが砂糖抜きだったのに気づいたのは、すっかりそれが冷え切った後だった。
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