毎日がカレー曜日
 前に、うまく形にしようとして失敗したそれ。

 E値を完全に見つけることが出来た昨日の夜。

 孝輔は、興奮に叫びだしそうになったのだ。

 ついにやった、と。

 ざまあみろ。

 ざまあみろは、もちろん直樹宛てだ。

 だが、彼はスパイスの香りで我に返った。

 香りの方を見ると、そこではサヤが突っ伏して眠っていて──窓の外は真っ暗、室内はただただ静かだ。

 騒ぎ出すことも出来なくなった孝輔だったが、眠る彼女を見ていると、興奮がゆっくりゆっくり収まっていくのを感じた。

 ああ。

 この一番嬉しい時間を、共有してくれる存在がいることは、ただ純粋に嬉しかった。

『興奮』が、『至福』に姿を変えていく。

 いまもそれに近い。

 削除の仕事は出来なかったが、納得のいく別の何かを手に入れた。

 大した女である。

 最初の予想を最後まで裏切りきったサヤは、孝輔の中にはっきりとその存在を残したのだ。

 それが、綺麗に煮上がるまでは、もう少し時間が必要かもしれなかったが。

「とりあえず、ハラ減ったな」

 仕事をしていると、食事を忘れることが多々ある。

 いろいろ終わってほっとしたら、孝輔の腹がぎゅるるとないたのだ。
 久しぶりの食欲だった。

「そ、それじゃあ…私がお世話になっているインド料理店なんかどうでしょう。すごくおいしいですよ」

 さっきのとんでもない騒ぎを、食事で埋め合わせようとするかのごとく、サヤが大慌てで提案してくる。

 インド料理なら。

 孝輔は、ちょっと笑った。

 インド料理なら、毎日朝と昼に食べられるではないか。

「いや、ラーメンにしようぜ、ラーメン」

 マザーグースの詩をBGMに、彼は信号を左に曲がった。

 うまいラーメン屋は、すぐ近くだ。

 セルシオでラーメン屋に乗り付けたのは、これが始めてだった。

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