Memory
「そうかぁ残念。っと…急がないとな。板倉君も気をつけて帰ってね。糸雨ちゃん、行こうか」
憐さんは私の手を引いて歩き出した。
「待って、憐さん」
憐さんの手を少し引っ張る。振り返った憐さんの顔は不思議そうな顔をしていた。
「夏も一緒に行きます」
「え…?」
私の一言に憐さんは目を見開く。
「板倉君は糸雨の力の事を知ってるの?」
真剣な瞳を向ける憐さんに私は渇いた笑顔を向ける。
「…知りません。だから教えてあげようと思って…」
多分私は今までで一番残酷な笑みを浮かべている。
憐さんは悲しげに、夏は息を呑んで私を見つめた。
「…糸雨ちゃん……」
何か言いたげに私を見る憐さんの瞳が痛い。
私は…夏が私を恐れればいい…そう思った。
だから連れて来た。
これは私が私で在る為には必要だから…
「行こう…憐さん」
ズキズキと痛む胸からは目を逸らして見ないふり、知らないふりをした。
私達は無言で車に乗り込む。それから現場へと車で向かった。