嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-


「じゃ……

最後、外で撮影しようか」



緒川さんの声に
先ほどからハンガーにかけてあった

着物に目が行った。



赤地に銀と金色の刺繍が施され、
高級感が漂っている。



「着付けた後、
髪も結ってあげるからね」



張り切る原田さんに
手伝ってもらいながら、

袖を通し、
髪を結ってもらう。



着物なんて、
七五三の時に来た以来だが、

その記憶も消えかかっている。


思い出そうとしても、
蘇って来ない。

お母さんとの時間が
どうしても思い出せないのだ。



お母さんが私のやっていることを見たら、

どう思うかな……。



何やってるの?!って怒るかな……。


もう二度と会うことが出来ないけど……。



「葵ちゃん???」



「……」



「葵ちゃん??出来たよ!」



「あっ!!」



原田さんの声で我に返り、
鏡に視線を向けた。



「わぁぁ!!大人ぽい!!」



「でしょ!!
葵ちゃんの顔には
こういうメイクが合うと思うの!

実は、着物はアタシの提案なんだ!!」



「え?原田さんの?!」



得意げな顔で頷く原田さんは、
メイク道具を片付けながら、

「こないだ葵ちゃんが
次に出すDVDの話を聞いた時、
どんなことをやったら良いか?って
質問されて、
着物が似合うって提案したの!!」



鏡越しに満面の笑みで話しかける原田さんに、
私も自然と笑みがこぼれた。



1階に下りると、
「おおお!!」と太い男性の声が響いた。



「葵ちゃん良いよ!!原田さん!ナイス!」



親指を立てて、
合図を送る緒川さん。


私たちは用意された外のセットに向かった。


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