嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-



「OK!!!
葵ちゃんにダウン着せてあげて!!」



カメラマンの声で、

原田さんは自分が着ていた
ダウンジャケットを

私の肩にかけた。



「寒かったでしょう!

早くペンションに入ろう!!」



地面に落ちている
解けた着物を急いで拾い上げると、

私を抱きかかえるように
ペンションまで走った。



着替えを済ませ、
原田さんが温かいレモンティーを受け取る。



さっきまで凍えていた手が
カップの熱さで、ジンジンする。



口はジワァと甘酸っぱい味が広がり、

喉から体へ流れ込んだ。



「お疲れさま。
葵ちゃん、今日は大丈夫かい?」



機材を車に積み込み、
一通りの片付けが済んだ緒川さんが声をかけてきた。



「はい。
前回よりもうまく出来たかな……と思います」



「うん。今日はすごく良かった!」



アゴ髭を親指で擦りながら、
笑みを浮かべる緒川さんがコーヒーを手にした。



「葵ちゃん、
今度ご飯に行こう。
今後のことも話したいし」



「あら、緒川さん!!
葵ちゃんを迫っちゃダメよ!!」



冗談交じりで言う原田さん。



「何、言っているんだよ!!

葵ちゃんの将来についての話だよ!!」



「あら、今度はアタシの将来も考えてほしいわぁ!!」



またまた冗談交じりの原田さん。



……将来について。



昨日、緒川さんから

“僕のほうでも考えておく”と言ってくれた。



そのことだろうか。


私はまだ中学二年生。


出来ることも限られる。



今の私に何が出来るのだろう。



私は気が付かないだけで、

大人の商売に利用されていたんだ。


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