嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-


団地の傍で、

自転車に乗って帰ってくる
ダイちゃんを見つけた。



大きな声で
「ダイちゃん」を呼ぶ元気もなく、

黙って通りすぎるのを見ていた。


健太も同じように、
気付きながらも声を出さない。


すると、
私たちに気付いたダイちゃんから
声をかけてきた。



ガソリンの香りがするダイちゃん。


目が線になって微笑むダイちゃん。


そんなダイちゃんを見ると、

私たちはホッとするんだ。



「お前たち、また元気ないな。

何かあったのか??」



「何にもないよ。大丈夫」



健太は強がるように言った。


ダイちゃんは
何かを察したかのように、

私に視線を向けた。



「ホント、大丈夫!

健太が転んじゃっただけなの」



無理やり笑顔で
答える私に、

ダイちゃんは「そっか」と言うと、

自転車を走らせた。



健太が言いたくないなら、
私からは言えない。



私たちは家に入り、
急いで夕飯の支度を始めた。



お父さんが帰って来る前に、
済ませておかないと、

機嫌が悪くなる。


健太もそれを分かっているか、
横で手伝いを始めた。


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