嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-


ちょうど、
魚が焼き上がり
お皿に乗せていると、

お父さんが帰ってきた。



「おかえり」



「あぁ」



茶の間に座るお父さんは、

真っ黒に陽に焼けていた。


昔は優しくて、
力持ちのお父さんが大好きだった。



ディズニーランドにも、
富士急ハイランドにも

連れて行ってくれた。



でも……、

2年前から変わってしまったのだ。



小さな紡績工場に
勤めていたお父さんは
役職もついて、

それなりに偉い立場だった。


それなのに、
大口だった取引先から
契約を打ち切られ、

会社は倒産。



職を失ったお父さんは、
私たちと生活するために

慣れない日雇いの仕事をしながら
就職活動をしたせいで、

過度のストレスが原因、
体調を崩し、

倒れてしまった。



それが
私の小学校の卒業式の前日だった。


同級生は
お父さんやお母さんが来ている中、

私だけ一人の卒業式だった。


体調が良くなってもお父さんは
仕事をしないで家にいることが多くなった。


就職先が決まってもすぐに辞めてしまう。



お父さんも
頑張っているのだから、

私も仕事をしたほうが良いのだろうか。


でも中学生が出来るバイトは
新聞配達ぐらい。


それなら私にも出来る……。



黙って、
箸を進めている中、

お父さんが口を開いた。



「土曜日、緒川さんのところに行くからな」



私は持っていた茶碗と箸を置いた。


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