嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-
「やらなくちゃ駄目なの?
新聞配達だったら、
私にだって出来るよ。
毎朝、早起き出来るよ」
声が震えてしまう私を
健太が黙って見ていた。
「まとまった金が欲しいんだ。
言うことを聞きなさい」
ご飯を口に入れながら
事務的に話すお父さん。
そんな父親の姿を見て、
娘なりに察するものがあった。
言うことを聞かないと
また暴れ出し、
健太への虐待が始める……。
そう痛感させる声に、
それ以上、
反抗することが出来なかった。
もう、優しいお父さんはいない。
20万で私を売ったお父さんしかいないのだ。
私は立ち上がり、玄関に向かった。
「お姉ちゃん!!!!」
健太の声を背中で受けながら、
ドアを開け、
外へ飛び出した。
階段を駆け下り、
薄暗い電灯の下を
ハアハアと息を切らして
無我夢中で走り続けた。
少しでも遠くに逃げたかった。
売られた現実から逃れるように、
全速力で走った。
そして、
家から少し離れたコンビニの前で
立ち止まり、
息を整える。
明るい光を放つコンビニは、
暗闇という現実から
逃げきったような感覚にさせてくれた。