嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-
5階に止まると、
“ラッキーフリーク”と書かれた表札があった。
お父さんは
私の顔をチラッと見た後、
「入るぞ」と言って、
インターフォンを押した。
「はい?」
若い男性の声が聞こえた。
「小阪です。
緒川さんとの約束で……」
「はい、ちょっと待ってください」
しばらくすると
ガチャっとドアが開き、
スーツ姿を着た男性が顔を覗かせた。
日サロに通っているような色黒で、
茶髪のロン毛はホストにも見える。
「社長は今、電話中なんで……。
中でお待ちください」
足を進めると、
壁には裸で写っている女性のポスターが何枚も貼られていた。
目を背けたくなる空間に、
中学生の私が絶対に来ちゃいけない場所だと実感した。
ソファに座り、
出されたお茶に口を付けるが緊張は拭えない。
「お待たせしましたぁ!」
体がビクッとしてしまうほど、
大きな声で
緒川さんがドアを開いた。
色眼鏡を掛け、
ビシッと決まったスーツ姿の緒川さんは、
ヨレヨレのスーツに
傷だらけの革靴を履いたお父さんとは対照的だった。