嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-
電車の中で、
黙ってつり革に掴まっているお父さんが
チラッと視線を向け、
口を開いた。
「仕事、イヤか??」
「……」
イヤって言えば、
やらなくても済むの?
でも私が「やる」って言えば、
お父さんも荒れずに、
健太も傷つくことない。
平和な時間を過ごせるんだ。
きっと……。
何も答えない私から
お父さんは視線を外し、
小さく溜め息をついた。
そんなお父さんの姿を見て、
私は口を開いた。
「……私、
やる……」
私の言葉に、
お父さんは「あぁ」と答え、
電車の窓から見える
オレンジ色に染まった街を眺めていた。
この街に
どれだけ幸せな普通の家族があるのだろう?
私も幸せになれるのかな……。