嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-
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「……ただいま」
30棟以上も
立ち並ぶ団地の中に
私の家がある。
築40年以上経っている
集合住宅の壁は
コンクリートのペンキが
剥がれ落ち、
ひび割れも目立っていた。
私は薄暗い階段を上がり、
ひんやりとしたドアノブに手をかけた。
重い鉄のドアを開けると、
乱雑に
脱ぎ捨てられた靴が目に入った。
靴紐が
泥だらけになっている運動靴は
小学2年生になった弟、健太のものだ。
そして
踵(カガト)が踏まれ、
再生不可能になった
埃まみれの革靴はお父さんのものだ。
既に2人が帰宅していることに気付き、
靴を揃えようと
腰を下ろした時、
耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえた。
「ヤダァァァァァ!!!
痛い!!!!」
健太の声だ。
まるで
泣き叫ぶような悲痛に満ちた声。
私は薄暗い茶の間に、目を見開いた。
「うるせぇぇ!
お前が言うこと聞かないからだろう」
「熱い!!痛いよ!!」
私は買い物袋から手を離し、
声がする茶の間に急いだ。
すると、そこには
Tシャツを捲り下げられた健太と、
その捲りあげられた背中に
タバコの火を
押し付けようとするお父さんの姿があった。
お父さんは酒を飲んでいるのか、
怒りに満ちているのか、
顔を真っ赤にさせ、
逃げようとする健太の髪の毛を
わし掴みしている。