嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-


「大丈夫です……。

緊張しただけですから」



私はイスに座り、

コップに入った水を一気に飲み干した。


そして
空になったコップの中身を見ながら、
意を決した。



「すいません。
迷惑かけちゃって……。

私は大丈夫です」



無理やりな笑顔をスタッフに向けた。


緒川さんが渋い顔を近づけ、

小さな声で耳打ちする。



「ホントに大丈夫??

……葵ちゃんの事情は
僕しか知らないから、

問題は起こさないでね」



交わした契約書。


20万で契約した仕事は

私と緒川さんしか知らないのだ。



私は黙って、

先ほど指示されたベッドの上に
腰を下ろした。



強い照明が当てられ、

目を瞑りたくなる。



「とりあえず、何枚か撮ってみるね」



気遣うように言うカメラマンさんが

シャッターを数回切った。




カシャカシャカシャカシャ………。




静かな部屋にシャッター音だけが響く。



腕を組みながら、
ダンマリとこちらを見つめる緒川さんに、

心配そうに見つめる原田さん。


淡々と業務をこなすカメラマン。

そしてアシスタント。



4人の大人が黙って私のことを見ていた。


< 41 / 120 >

この作品をシェア

pagetop