嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-
「葵!!おはよう!!」
下駄箱で
背中を力強く叩く、
紗希の声がした。
「おはよう。
紗希!!痛いよ!!」
「だってぇー
ずっと誰かを見つめていたから、
目を覚ましてあげようと思って!!」
「えっ!?誰も見てないよ!!」
手をオーバーに振り、
妙に不自然になってしまう。
「葵ってウソ付くと、
下手だよね!
もうバレバレだよ」
私の肩に手を回す紗希は
「友井くんなんでしょ?」と
意地悪そうに訊いた。
一瞬で顔がカーッと熱くなったが、
素直に頷いてしまった。
「やっぱり!!
こないだから変だなと思ったんだ!!」
撮影のことで塞ぎこんでいたが、
友井くんを気にしていたことも事実。
紗希は私のことをよく見ている。
「紗希、誰にも言わないで。
私、別に何か望んでいるわけじゃないの」
「そうなの?!
付き合いたいとか思わないの?」
「付き合いたいとか、
そんなこと考えてない。
見ているだけで良いんだ」
「何で??
友井くんは今、彼女いないよ!!
チャンスだと思うけど」
「良いの。私は今のままで……」
♪キーンコーンカーコーン
私たちの会話を終了させるように、
チャイムが鳴った。
少し残念そうな紗希に、
私は笑顔で頷いた。