嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-
「何やっているの!?
お父さん!やめて!!!」
健太の背中に
お父さんがタバコを押し付け
“ジュッ”と皮膚の焦げる音がした。
「あっーー!!!
痛い!!熱い!!」
また健太の悲鳴が部屋中に響く。
「お父さん!!やめて!」
お父さんからタバコを取り上げようと
ゴツゴツした右手を掴むが、
力では敵わない。
薄暗い部屋で
オレンジ色に光るタバコの先端が
背中に近づくと
「やめてやめてやめて……」と悲痛の声が響き渡った。
「お父さん!!
いい加減にして!!」
お父さんの手が
健太の髪の毛から離れ、
「うるせぇ」と
私の頬を手の甲で叩いた。
バチンと乾いた音が響くと、
私はその場に倒れ、
お父さんをジッと睨んだ。
「何だ、その目は!!」
お父さんは
再び私の頬を目掛けて、
肉厚のある手の平が降りおろした。
先ほどよりも
痛々しい音と共に、
私はその場に倒れ込んだ。
一気に
静まり返った部屋で、
すすり泣く健太の声だけが寂しく響く。
お父さんは
そのまま自分の部屋へ移り、
胡坐をかいて、
タバコを咥えた。
私は歯を食いしばり、
上体を起こした。
そして健太の手を引くと、
玄関へ向かった。
ここを出よう。
地獄から逃げ出す気持ちは
足早になった。
靴なんて
しっかり履いている余裕などない。
ドアを開け、
完全に陽が落ちた外へ飛び出した。