嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-
「ちょっと!!葵!!」
紗希の声を背中で感じながら
ドアを開け、
廊下を全速力で走る。
階段を駆け下り、
薄暗い廊下を
また無我夢中で走った。
ハアハアハアハア…………。
肩で息をしながら、
下駄箱付近で立ち止まると、
壁にもたれるようにペタンと座った。
……私が恋をしちゃいけない。
突然、
あの時のことが蘇ったのだ。
カメラのレンズが
私のカラダを
舐めるように撮って行く。
あの日のことを思い出したのだ。
友井くんと
目があった瞬間、
どうして
あの事を思い出したのかは……
分からない。
でも
私が恋なんてしちゃいけないことを
意味しているように思えた。
「ちょっと!!!葵!!!」
後を追ってきた紗希が
息を切らしてやってきた。
そして隣に腰を下ろす。
「もう!どうしたの!?
急に走り出して。
恥ずかしくなったの??」
何も答えない私に、紗希はため息を付く。