嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-
2DKの古びた公団住宅には、
物心ついたときから住んでいた。
私にはお母さんがいない。
健太が1歳になる前に、
離婚届けをおいて出て行ったのだ。
当時、
ホステスをしていたお母さんは
スナックで知り合った客と
駆け落ちしたと
祖母から聞いていた。
きっと
お父さんも辛かったのだろう。
お母さんが
他の男の人と居なくなったんだから。
でも健太に
こんなことをするなんて……
酷すぎる……。
私たちは
ベンチに座り、
痛がる健太の肩を抱きながら、
暗くなっていく空を眺めていた。
公園の時計が
18:50を指している。
「……お姉ちゃん?
これからどうするの?
家に帰る?」
「うん……。
考えるから待って…」
考えたからって答えなんて出ない。
家に帰るしかないのだ。
でも……
家に帰るのが怖い。
「おい?お前たち
……何やってるんだぁ?」
聞き慣れた声に
顔を上げ、
自転車に跨る人を見つめた。
「あ!!!ダイちゃんだ!!!」
私より先に健太が声を上げた。
火傷の痛みを忘れたかのように
駆け寄る健太は
ダイちゃんに抱きついた。