嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-



お父さんに言わなくても
良いのに……と思いながら、

テーブルにお茶を出す。



「葵ちゃんは家族のために偉いね。

発売したDVDを持ってきたんだ。

……これなんだけど」



カバンから
セーラー服を着た私が
泣きそうな顔で写る

DVDを3本取り出した。



「5つあげるから、
友達や親戚にあげても良いよ。

あとこの家に
DVDプレーヤーがないよね?

だから……」



そう言って、
緒川さんは大きな電化ショップの紙袋から

買ったばかりの
プレステーション3を取り出した。



「これはこの前頑張ってくれたお礼だよ。

プレステがあれば
DVDも見られるからね!」



目尻を垂らし、
「はい」と差し出した。



私は受け取らずに
黙って居ると、

「嬉しくなかったかな?」と、
顔を覗き込んだ。



横で黙ったままタバコを咥え、

白い煙を吐くお父さんに視線を向けた。



「あの……。

こんな高価なものはもらえません」



うつむいたまま、下唇を噛んだ。



こんなものが欲しくて、やったんじゃない。



今も私の裸が
たくさんの人の目に触れることが怖くて、

震えが止まらないんだ。


あの日から
学校でバレるんじゃないか、

不安で不安でいっぱいだった。

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