嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-



ツーツーツー……



叫んだ余韻が残っている受話器を置き、

その場にしゃがみ込んだ。



どんどんと涙が溢れて来る。



頬を伝い、
ひんやりとする床に

ポツンと落ちた。



健太が頭から血を流して苦しんでいる時、

お父さんはお酒を飲んでいた。



私が裸になってビデオに撮られたお金で、

お父さんはカラオケを楽しんでいた。



ぶつけることが出来ない
やり場のない感情を拳に変え、

床を叩きながら、

流れる涙を袖で拭った。



「……葵?」



遠くから、
私を呼ぶ声が聞こえた。


カシャカシャと
ジャンバーの擦れる音が近づくが、

振り返る元気も返事する気力もなかった。



「大丈夫か?
オジサンと繋がったか?」




ダイちゃんだった。

こういう時、
いつも傍に居てくれるのってダイちゃんだけだった。



「ダイちゃん……」



私はダイちゃんにしがみ付いた。



「ダイちゃん……、

ダイちゃん……、ダイちゃん……」



「どうした?
オジサンに何か言われたのか?」



私の背中を摩りながら、
落ち着いた口調で問いかける。



「お父さん……、

飲み屋に……いた……」



泣きながら答える私に
「そっか」と
ため息混じりに答えた。



私はダイちゃんに支えられ、

近くのベンチに腰を下ろした。



「健太は大丈夫だって。
さっき看護師さんが言ってたよ。
だから安心しろ」



「ホント?大丈夫なの??」



「あぁ。
明日もう一回検査はするけど、
今は大丈夫だって!」



「そっか……。

良かった。ホント良かった……」



安堵から、また涙が込み上げた。



健太が無事で良かった。


健太、ごめんね……

私にも責任があるんだ。


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