嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-


私とダイちゃんは
救急治療室の前に戻ると、

ちょうど
健太を乗せたタンカーが出てきた。



「健太!!!」



ヨロヨロした足どりで
タンカーに駆け寄り、呼びかける。



「今は眠っているから、
起こさないであげて。

……ところでお父さんと連絡取れた??」



看護師が私の肩に手を置き、
心配そうに尋ねた。



「はい。一応……」



「一応?
お父さん、病院に来るでしょ??」



「………」



そんなのこと分かんない。


お父さんの顔なんか見たくない。


もう、会いたくもない!!



その時、
院内を駆けて来る足音が聞こえた。



「すいません!!」



聞き慣れた声だ。



「オジサン!!!」



ダイちゃんの声の先には、

血相をかいたお父さんの姿があった。



「あなたがお父さんですか??」



看護師の質問に、
「はい」と答える。



「では、こちらで状態を説明しますので……」



看護師は診察室を案内するように歩き出した。



そんな状況を
ただ黙って見ている
私とダイちゃんは、

静まり返った院内のベンチに腰を下ろし、
小さくため息を付いた。



「今回のこと、
病院に言ったほうが良いんじゃないか??」



「……え?」



「ほら、
オジサンが健太を突き飛ばして
こんなことになったんだろう?

これって虐待だよ。

それに背中の傷だって見たら分かる」



「うん……」



虐待。


背中の火傷や今日の怪我。


この事実を明らかになれば、
どうなるのだろうか。



健太が幸せになれるの?

そして私も幸せになれる?


何も変わらないような……。


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