嘆きの天使-ジュニアイドル葵の事情-
新宿の街を歩き出すと、
肌寒いビル風が
頬に当り、
身震いする。
その時、
向かいから
見たことのある女性が歩いてきた。
ミニスカートから
細く長い脚を出し、
ファーのコートを着た
モデルのような女性。
……シホちゃんだ!!!!
「シホちゃん!!!!」
思わず大きな声を出てしまった。
通行中の人たちが
私に振り返る中、
うつむき加減のシホちゃんも
私に気付き、
目線を向けた。
「シホちゃん!!久しぶり!!」
手を振りながら、
駆け足でシホちゃんに近付く。
「……葵ちゃん。
久しぶりだね。
元気だった??」
「うん!!!
こんな所で会うなんて、ビックリ!!!」
会うのは3年ぶり。
シホちゃんが家を出てから、
一度も顔を合わしていなかった。
「シホちゃん、
家に帰って来てるの?
全然、会わないから」
「うん。たまにね……」
ぎこちなく話すシホちゃんは、
腕時計を見ながら
時間を気にしていた。
「シホちゃんはこれからどこに行くの??」
「ちょっと打ち合わせなんだ。
だから、また今度ね」
シホちゃんは軽く手を振り、歩き出した。
3年ぶりに会ったのに、
何とも言えない味気ない会話。
昔は色んなところに連れて行ってくれたシホちゃん。
サーティーワンのアイスを初めて食べたときも、
シホちゃんが奢ってくれた。
5年生の学芸会で
カールを巻いたときも、
シホちゃんにやってもらった。
シホちゃんの歩く後ろ姿は、
どことなく寂しそうにも見えた。