【短編】棘のない薔薇
棘のない薔薇




――――あー、うぜぇ。



心の中でつぶやきながら、右手に持ったコーヒーの缶を握り潰すかのように力を込めながら一気に煽る。


苦い液体に舌が少し痺れた。




「美咲(ミサキ)、クリームついてる」


「えっど、どこ?」


「ん〜と、ココ」




その言葉のすぐ後に、小さな悲鳴が聞こえた。


何が起きたかなんて見なくても分かる。


小さくため息をつき、俺は空になった缶を机の上に乱暴に置いた。




「……彗(スイ)」




ここ最近、俺の苛立ちを増幅させている弟の名を呼ぶ。


その声に、俺と同じ顔をした男が顔を上げた。




「なに、蓮(レン)」




そうとぼけたように聞き返すのは、俺の双子の弟、笹本彗。


ニヤニヤと笑いながら俺の顔を見つめる彗に、俺は不快感を隠しもせずに舌打ちをした。




「余所でやれ」


「何を?」




……あー、ヤバい。


今すぐ殴りたい。
< 1 / 7 >

この作品をシェア

pagetop