【短編】棘のない薔薇
棘のない薔薇
――――あー、うぜぇ。
心の中でつぶやきながら、右手に持ったコーヒーの缶を握り潰すかのように力を込めながら一気に煽る。
苦い液体に舌が少し痺れた。
「美咲(ミサキ)、クリームついてる」
「えっど、どこ?」
「ん〜と、ココ」
その言葉のすぐ後に、小さな悲鳴が聞こえた。
何が起きたかなんて見なくても分かる。
小さくため息をつき、俺は空になった缶を机の上に乱暴に置いた。
「……彗(スイ)」
ここ最近、俺の苛立ちを増幅させている弟の名を呼ぶ。
その声に、俺と同じ顔をした男が顔を上げた。
「なに、蓮(レン)」
そうとぼけたように聞き返すのは、俺の双子の弟、笹本彗。
ニヤニヤと笑いながら俺の顔を見つめる彗に、俺は不快感を隠しもせずに舌打ちをした。
「余所でやれ」
「何を?」
……あー、ヤバい。
今すぐ殴りたい。