【短編】棘のない薔薇
グッと拳を握りしめた俺の耳に、「蓮さん」と柔らかい声が届く。
「あ、あのっごめんなさい…」
そう言ってすまなさそうに謝ってくるのは、彗の彼女の白石美咲。
高校生のくせにやたらと身長が低い彼女は、今彗の膝の上に座っている。
眉を垂らし、うなだれているその姿を見て、俺は舌打ちした。
クソ…
お前がいたんじゃ殴れねぇだろうが。
拳をゆっくりと解き、その手で彼女の頭を撫でた。
「…美咲は謝らなくていい」
俺の言葉に美咲は恐る恐る俺を見上げた。
長い睫毛が小さく震えている。
「ほ、ほんとに…?」
「あぁ」
頷くと、美咲はホッとしたように笑った。
「良かった…」
その預けきったような無防備な笑顔に、俺も無意識に微笑む。