【短編】棘のない薔薇




苦虫を潰したように顔をしかめた瞬間。


ふわり、と薔薇の香りが鼻をついた。




「……っ…」




なんつータイミングだ。


亜麻色の髪を揺らしながら歩く後ろ姿に、俺は小さく舌打ちした。




「蓮」




彗が呼びかける。




「大丈夫か?」


「…あぁ」




こうゆうところは、流石だと言うべきだ。


双子だからこそ分かるタイミングというものを、彗は理解してる。




「悪いな」




彗の声がなかったら、俺自身、自分を抑えれていたか自信はない。




『蓮。私が慰めてあげよっか?』




頭に響いた声に、ギリッと奥歯を噛み締める。


ふざけるなよ。


慰めてやってんのは、俺の方だ。


俺はあんたに慰められてるつもりはない―――。
< 4 / 7 >

この作品をシェア

pagetop