【短編】棘のない薔薇
苦虫を潰したように顔をしかめた瞬間。
ふわり、と薔薇の香りが鼻をついた。
「……っ…」
なんつータイミングだ。
亜麻色の髪を揺らしながら歩く後ろ姿に、俺は小さく舌打ちした。
「蓮」
彗が呼びかける。
「大丈夫か?」
「…あぁ」
こうゆうところは、流石だと言うべきだ。
双子だからこそ分かるタイミングというものを、彗は理解してる。
「悪いな」
彗の声がなかったら、俺自身、自分を抑えれていたか自信はない。
『蓮。私が慰めてあげよっか?』
頭に響いた声に、ギリッと奥歯を噛み締める。
ふざけるなよ。
慰めてやってんのは、俺の方だ。
俺はあんたに慰められてるつもりはない―――。